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「なめし」のお話

本日のテーマは「なめしって何?」という話題。

革職人の方でも、実はよく分かってない、、、という方も多いのではないでしょうか?

 

知っていても、実は知人にドヤれるだけの知識かもしれませんが、

まずは基本的なところ、おさらいしてから、マニアックな話も押さえていきましょう。

 

*文字多め、というか文字ばかりですが、お付き合いください(笑)

なめしって何?

「なめし」という言葉、漢字で書くと「鞣し」となります。

読んで字のごとく、革を柔らかくすると書きます。

 

焼き鳥の定番「とりかわ」や、人の「ひふ」なんかはそれぞれ

「鳥皮」「皮膚」と、皮の字を使いますよね。

一方、お財布やバッグなどは「革」製品ですよね。

 

この「皮」→「革」にする事を「なめし」と言います。

(ひらがなだと見にくいので、以降「鞣し」と書きます。)

 

で、具体的に鞣しとは何か、というお話ですが、

「皮」に対して、概ね以下のような効果をもたらす事を「鞣し」と言います。

 

①柔らかくする

「鞣し」の文字通り、皮を柔らかくすることです。

「鳥皮」や「皮膚」を想定すると分かり難いですが、

「皮」って乾燥するとカチカチに硬くなるんです。

ワンちゃんにあげるガム(チューイングボーンなどと呼ばれているようです)などは、

カチカチに硬いですよね。

 

「鳥皮」などは、その繊維中に水分を多分に含んでいますので、

ある程度の時間は柔らかさが保たれていますが、

やはり水分が蒸発してしまうと硬くなってしまいます。

 

②耐熱性を与える

「革手袋」などを想像してもらえると分かりやすいかもしれませんが、

革という素材は熱に非常に強いです。

 

 

③腐らなくする

当たり前ですが、鳥皮って腐りますよね。

一方、革製品は腐らないですよね。

つまり、そういうことです。

 

④簡単には生皮に戻らない

一旦「革」に鞣した後、「皮」に戻ってしまったら嫌ですよね。

いつの間にかバッグが腐ってました、、、なんて笑えません。

「鞣し」にはどんな種類があるの?

いっぱいあります。

先時代的な鞣し手法だと、ひたすら皮を嚙みまくって唾液で鞣す方法、

狩猟した獲物の脳みそを擦り込んで鞣す方法(脳漿鞣しと言うそうです)、などなど。

 

それ以外にも「燻煙鞣し」「油鞣し」などなど、調べればいくらでも出てきそうですが、

現在工業的に主流なのは「クロム鞣し」「タンニン鞣し」と呼ばれている手法です。

この2つの鞣し方法、掘り下げていきましょう。

 

・「クロム鞣し」

「硫酸クロム」という鞣し剤を使用した手法。

Cr2(SO4)3という化学式のようです。

軽く、強度が高く、高耐水性で汚れにも強い、更に比較的柔軟な素材のため、

靴や服などの場合、ほとんどの革製品がクロム鞣し革を使用しています。

流通量で見ても、「タンニン鞣し革」と比較して、圧倒的に大きい量が使用されています。

 

・「タンニン鞣し」

ワインやお茶などにも含まれる、タンニンを使用した手法。

実はタンニンには色々な種類があり、皮を鞣す性能の有る有機化合物を総称して「タンニン」と呼ぶそうです。

「クロム鞣し」と比べると、強度面や耐水性など劣る部分もありますが、

自然な風合いの残る、風情のある材料です。

また、「経年変化」という、使い込むごとに色や柔らかさが変わってくる性質もあります。

加えて、可塑性という、変形状態を保持する性質があります。

「レザーカービング」と呼ばれる、革表面に花柄などモチーフを彫り込む手法は、

この可塑性を活かした手法と言えるでしょう。

 

*一部、「タンニン鞣し革は強度が強い」というような情報もありますが、

ある意味正しく、ある意味間違った情報です。

タンニン鞣し革の場合、厚みが厚い革が多いため、単純に厚み分、強度が高い側面があります。

実はクロム鞣しと同じ革厚の場合、クロム鞣しより強度が劣る素材が多いです。

*こちらA-003SBモデルの制作風景(スタンピング)。

ゴリゴリのカービングはやりませんが、スタンピングはやってます。


当社で使用する革は?

ghostplant leather worksで使用する革は、

全てタンニン鞣し革となります。

 

前項で記載した通り、メリットだらけのクロム鞣し革ですが、

経年変化が少ない点のみ、デメリットと捉えています。

 

ブランドのコンセプトとして、

「ユーザー様の人生に寄り添う」というテーマがあり、

使い込むことの喜びが感じられない革は、

ブランドのコンセプトにそぐわないと感じています。

 

*クロム鞣し革を悪く言うわけではありません。

あくまで代表・清水の感性の問題ですので。。。


「鞣し」をもっと詳しく!!(ここからとってもマニアック。。。)

鞣し工程って、具体的に何をしているの?という話です。

革の鞣し業者(タンナーさん)では、毛抜き、鞣し、加脂、仕上げetc...、

とても沢山の工程を踏んで、皮革の生産を行なっていますが、

今回は鞣しにキャプチャした、化学的な内容です。

(鞣製学と言うそうです。)

 

*多少、化学の知識が必要になります。。。

 

まず、基本的な部分なんですが、「鞣し」とは皮の中の「コラーゲン」を色々する化学反応です。

コラーゲンとはタンパク質ですので、色々なアミノ酸がペプチド結合で繋がった、

繊維構造を取っています。

 

この繊維と繊維の間をタンニンなど鞣し剤は、橋掛けしたり、繊維の隙間に入り込んだりします。

 

①収着反応

鞣し剤がコラーゲン繊維の反応基/極性基にくっつきます。

まずは準備段階の反応、といったところでしょうか。

この活性中心になるアミノ酸は、-COOH(カルボキシル基)や-OH(フェノール基)などなど、

色々とありますが、なんとなく活性が高そうな感じですね。

 

②橋掛け反応

①でくっついた鞣し剤が、隣のコラーゲンにもくっつくイメージです。

鞣し剤を介して、2本のコラーゲン繊維が1つの分子になるイメージですね。

これにより分解しやすいコラーゲン分子同士が1つにまとまり、安定した状態になります。

 

③充填反応

①②を経て、より強固になったコラーゲン繊維、

この繊維と繊維の間に鞣し剤の凝集粒子が入り込み、繊維の隙間を埋めます。

この充填度合いをコントロールするのも、タンナーさんの腕の見せ所のようですね。

詰まりすぎていてもダメだし、スカスカでもダメらしいです。

 

とまぁ、多少小難しい事を色々と書きましたが、もっと詳しい内容を知りたい方は、

以下、今回の参考文献を読んでみてください。

ネット上にもPDFでありますので、検索してみてください。

(・・・多分、私の文章より内容が正確で、語弊のない表現で書かれていると思います。。。)

 

*参考文献:久保田 穣「天然皮革」

      西岡 五夫「タンニンの化学-最近の研究」

最後に・・・

ここまで飽きずに読んで頂き、ありがとうございました!

最後、だいぶマニアックな内容まで踏み込みましたが、

ぶっちゃけ、ユーザー様は全く知る必要の無い知識でしたね(笑)

 

でも、我々革職人は、お金を頂いて商品をお作りしている訳ですので、

こういった素材がどうやって作られているのかまで知った上で、

革と言う素材に向き合わねばならないと考えます。

そこに、「こんな事知らなくても大丈夫!」などの妥協があってはなりません。

 

若干本題からズレたまとめになりそうなので、軌道修正しますが、

本日の結言「鞣しを知れば、革はもっと面白い」でお願いします。